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農業と科学 平成20年3月
本号の内容
§被覆尿素肥料と草生栽培を用いたモモ園の環境保全型施肥管理
山梨県果樹試験場
環境部長 古屋 栄
§のり面緑化工の変遷について[5]
-生物多様性と外来生物法-1-
エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司
§のり面緑化工の変遷について[6]
-生物多様性と外来生物法-2-
エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司
山梨県果樹試験場
環境部長 古屋 栄
果樹園に肥料として施用した窒素分は硝酸に変わり流亡し,最終的に地下水に到達し,環境への負荷要因となる。モモ産地においても施肥窒素の流亡による地下水の汚染が懸念されている。
山梨県甲府盆地にはブドウ,モモを中心とする落葉果樹産地が分布している。ところで山梨県内の公共水道における水源の70%が地下水を使用しており,全国平均の25%に比べかなり高くなっている。また,国内ミネラルウォーターの41%が山梨県内で生産されている。このように山梨県はきれいな地下水への依存度が高い地域である。
一方,窒素肥効はモモの樹体生育や果実品質への影響が大きく,環境への負荷軽減のために単純に窒素施用量を減らせば良いという問題ではない。現在のところ硝酸汚染が問題となっているわけではないが,果樹産地としてさらに発展するためには生産者サイドからも将来に向けクリーンな周辺環境を維持する努力をしていかなければならない。
今回は,窒素流亡の少ない肥料として着目されている被覆尿素肥料のモモ栽培における試験事例を紹介しながら,環境にやさしい施肥技術についての方向性を示したい。
被覆尿素肥料といっても多くの種類が知られている。この内,どのような被覆尿素肥料がモモ栽培に適応しているかを検討するために,容量200Lのコンテナ内で根域制限栽培したモモ若木に対し,3種類の代表的な被覆尿素肥料を用いて施肥試験を実施した。
被覆尿素肥料からの窒素成分の溶出は温度に大きく影響され,地温が高い程窒素の溶出は進む。リニア型の溶出曲線を示すLPコート70(以下LP70),LPコート140(以下LP140)は11月の施肥1月後から窒素の溶出が始まり,その後は各資材の特性に応じて進行した(図1)。シグモイド型のLPSコート100(以下LPS100)は施肥後5ヶ月間はほとんど溶出せず,初夏~盛夏期に集中して窒素を供給した。

モモの樹は春季から初夏にかけて土壌中の窒素成分を吸収しながら盛んに新梢が伸長する。LP70では3~5月における窒素の供給量が高いため,新梢伸長は最も良好であった。その結果,十分な葉面積が確保され,果実は良好に肥大し,糖度も上昇した。
以上のように生育初期に窒素肥効がある程度集中し,その後もゆるやかな肥効が持続するLP70を中心とする施肥がモモ栽培では適する。
次に,被覆尿素肥料に含まれる窒素分が樹にどの程度利用されるのかを明らかにするために,1年生モモ苗木を容量80Lのポットに植栽し,窒素10gに相当する数種の肥料を施用して栽培管理した。半年後,部位別に解体し窒素吸収量を測定した。同時に施肥窒素利用率を算出した(表1)。

LP70を用いた被覆肥料区の利用率は52%と最も高く,配合肥料等の他資材に比べて2割以上高い値を示した。
小規模試験ではあるが,この試験結果より,被覆尿素肥料を用いれば他の施肥資材よりも高い窒素利用率が確保され,環境に配慮したモモ施肥が実現出来る可能性が示された。また,標準量に対し1~2割程度窒素施肥量が削減出来る可能性も示された。
そこで,モモ栽培における窒素成分の動きを出来るだけ圃場条件に近い規模で把握し,環境にやさしい施肥を目指すためにライシメーター試験を実施した。この試験では,施肥資材の違い,植栽樹の有無,地表面管理法の違いと窒素流亡との関係について検討した。
本試験で用いたライシメーターは図2のような構造である。一辺2mの正方形のコンクリートで仕切り,1.2mの深さまで砂壌土質の沖積土壌を充填した。それより低い位置には水はけを確保するために小石を敷き詰め,深さ1.8mの位置に排水口を設置した。かん水や降水により受容器に排水された浸透水中に含まれる硝酸態窒素を測定すれば,窒素流亡量が明らかにできる。

各ライシメーターには1997年11月にモモ2年生若木各1樹を植えた後,6年間栽培した。
施肥は被覆尿素区:LP70(礼肥:LP40),尿素区:尿素(礼肥:尿素),有機配合区:有機配合肥料(礼肥:鶏ふん)を年間窒素施肥量180g(内礼肥:30g)の割合で施用した。他の成分は単肥で補充した。施肥時期は,基肥:10月下旬,礼肥:9月上旬とした。
モモ樹を植栽したライシメーター内土壌からの硝酸態窒素の冬季間中の濃度はいずれの施肥区においても0.5ml/L以下と低く,流亡はわずかであった(図3)。本県のモモ園の施肥は10月~11月に行なう基肥が主体である。その後,冬期間は休眠期に入り,養分吸収はほとんど行われない。この期間の肥料からの窒素流亡が懸念されるが,実際は降雨が少なく乾燥で経過する上に地温が低いため窒素分の動きが緩やかで窒素流亡はあまり起こらないと判断される。

しかし,春季になり地温の上昇とともに土壌中の微生物活性は上昇し,硝酸態窒素含量も増加した。かん水や降雨により土壌内部を浸透水が通過すると3~7月にかけて窒素流亡が増加した。その後は低下したが,その理由は樹の養分吸収が良好となり,土壌に残る窒素量が少なくなったためと考えられる。
本試験で用いた3種類の窒素肥料を比較すると,水に溶けやすい尿素区では4月以降,浸透水中の硝酸態窒素濃度が10mg/L以上に急上昇した。しかし,他の施肥区では低く,現在農家が主に使用している有機配合肥料でも硝酸態窒素濃度は1mg/L以下と低く,問題はなかった。最も流亡が低く抑えられたのは被覆尿素区であった。被覆尿素は溶け出しやすい尿素を特殊樹脂によって被覆し,溶出を緩やかにしてある。
このように被覆尿素からの硝酸態窒素の流亡は極めて少なかったが,この窒素肥効で樹が良好な生育をするか気掛かりである。そこで生育量を比較すると,被覆尿素区の幹周の肥大は他の施肥区に比べて良好で樹体生育は促進された(図4)。

これは被覆尿素に含まれる窒素の利用効率が最も高く,施肥した窒素成分の吸収に無駄がないためと考えられた。その結果,果実収量も被覆尿素区で最も高かった(図5)。供試樹は幼木であったが,糖度等の果実品質は肥料資材間で大差なかった。

以上のライシメーター試験は,面積4㎡の小面積条件で実施したものであり,圃場条件下では根の分布が多い樹周辺部位を想定したものである。実際のモモ園の窒素流亡を検討する際には,根が多く分布するこの部位を検討するだけでは片手落ちである。モモ園には根が伸長していない樹間部も存在するからである。
そこで,モモ樹を植栽しない更地状態のライシメーターを設定し,樹間部の施肥管理法を検討した。前年の2003年10月には有機配合肥料または尿素を施用後,2003年10月にLP70を施用した。その後,約1年間の硝酸態窒素の流亡について調査した。
その結果,樹を植栽しない条件では浸透水中の硝酸態窒素濃度が最大20mg/L以上と上昇し,年間を通して植栽時の平均10倍以上の高濃度の窒素が流亡した(図6の▲)。考えてみると窒素を吸収するモモ樹を植え付けなければ,被覆尿素といえども窒素分は吸収されないで下方に流亡するのは当然である。
実際の圃場では,樹近くの根の分布の多い部位より樹から離れた根の少ない部位における施肥管理のほうが窒素流亡を抑えるためにはより重要であると思われた。そのため,まず余計な窒素流亡を抑えるために根の分布が少ない部位への施肥を出来るだけ控え,施肥は樹幹周囲に行なうべきである。

次に,根の分布が少ない部位における窒素流亡をさらに抑える手段を検討するために,無植栽のライシメーターの地表面の雑草を除草しないで残し,雑草草生栽培で管理した。雑草は草丈30cm程度に伸長するごとに地表近くまで刈り取り,刈り取った草は地表面にそのまま放置した。調査期間中に5回の草刈りを実施した。
その結果,浸透水中の平均窒素濃度は1/2以下に低下した(図6の△)。吸収されずに土壌中に残っていた硝酸態窒素を草が吸収することで流亡するのを抑制したと考えられた。
以上示したように,窒素流亡を抑制するためには,樹幹近くの根の多い位置に行う部分施肥が適すると考えられる。また,樹と樹の間で根の分布が少ない位置では部分草生を行って管理するのが適している(図7)。

山梨県においても環境保全型農業を今後,推進するにあたり牛ふん等の有機物の施用量の増加が予想される。これらには,リン酸やカリが多く含まれるので従来どおり三要素をほぼ均等に含む配合肥料を使っていたのでは過剰症の発生が予想される。一方,被覆尿素肥料は窒素成分のみを含むのでリン酸やカリの施肥量を抑制するにも好都合である。
また,被覆尿素肥料は溶出がコントロールされているため根の極端に近い位置に局所施用しても,濃度障害が発生しないでさらに吸収効率の高い施肥が実現する可能性も残されている。
このようにモモの施肥における被覆尿素肥料の利用は,環境保全型農業を確立するうえでの中心的な施肥技術になると期待している。
草生栽培については,従来から言われている生産性や省力性向上面のメリットだけでなく,環境面からのメリットも示された。今後は,草種の違いによる影響等も検討しさらに有効な環境負荷軽減技術としたい。
今回の試験結果は,ライシメータ一等の限られた条件下で行われたものであり,施肥法確立のための基礎資料の段階に過ぎない。今後は,実際の圃場レベルで部分施肥や樹間部の草生栽培管理が窒素流亡や果実品質等に及ぼす影響について明らかにする予定である。
エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司
地球規模の環境問題が初めて議題とされた平成4年のリオサミット(地球サミット)において,生物多様性の保全が大きく取り上げられました。これを期に,我が国は生物多様性条約を締結し,条約によって義務とされている「生物多様性国家戦略」を地球環境保全関係閣僚会議が平成7年に策定しました。
国家戦略ですから,国内の関連する法律の上位に位置づけられるもので,国家戦略の示すところに基づき環境関連法が次々と新設,あるいは改正され,生物多様性保全・環境保全が行政の内部目的化されました。平成14年には,生物多様性国家戦略の見直しによる新国家戦略が決定され,現在,第三次の見直し行われており,今年度中には施行される予定です。
生物多様性国家戦略に関連する法律として,環境省では,我が国独自の生態系の保全を行うことを目的とする外来生物被害防止法(外来生物法)を平成17年に施行し,国土交通省では,多様性保全を積極的に推し進めるために,これまで実施されていた法律の改正,景観法など新たな法律が施行されました。また,農林水産省においては,平成15年に遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律を施行し,遺伝子組換え生物の生物多様性への影響を評価することを義務付けました。狩猟法(大正7年),自然公園法(昭和32年),自然環境保全法(昭和47年),絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年)など既存の法律と生物多様性条約の締結後に新設された関連法律の適用により生物多様性保全への取り組みが進められております。
熱帯雨林の消失,砂漠化の進行など,人間による開発行為により多くの種が劇的とも言うべきスピードで絶滅し,自然生態系が消失の危機に瀕しております。このため,多様な生物の関わりの中で成立している自然生態系の保全を図り,絶滅に歯止めをかけようという活動が推進されています。この理念が「生物多様性の保全」です。
自然生態系の中には多様な生物が生息し,喰う・喰われるという食物連鎖や共生の網によって相互に結ぼれています。この連鎖の網が複雑であるほど,すなわち多くの種によるネットワークが重層的に構成されているほど安定した生態系を形成していることになります。たとえ一つの編み目が壊れたとしても,全体の編み目は保たれるためです。このような複雑性・重層性を形成する多様な生物を守り安定した生態系の保全を図ることが生物多様性の保全です。これは,単純な種による生態系は,害虫の大発生や土壌の劣化を招きやすく不安定である事と対比させて考えるならば理解できます。
生態系の多様性を保全することは,様々な生き物の生息の場を保全する事のみならず,私たちの生活を支える基盤を保全することでもあるのです。私たちの暮らしを支える多くのものは生物に由来します。燃料,食料,生活用品の素材,工業用原料などが,動植物,あるいは微生物により直接・間接的に得られます。この点で,生物は重要な基礎資源ということができます。
特に,熱帯林など十分に科学的な研究がなされていない地域には,未発見の有用な種が存在する可能性があります。現在は遺伝子が資源となる時代ですから,未知(未利用)の種を絶滅に追い込むことは,未来の医薬品・工業原料が失われ甚大な不利益を被る恐れがあるわけです。
農業においてもしかりです。遺伝子ハンターが原種や新種を求めて世界中を飛び歩いています。野菜などの遺伝子組み換えを行うためには,様々な可能性を秘めた原種や新種の遺伝子を確保することが重要なのです。
これらは,利用的側面からの価値といえ,経済的価値観により裏付けできるものです。しかし,生物多様性の保全は,これとは異なるレベルの価値観が存在します。多様な動植物が存在することによる生活の潤い,精神的な豊かさ・充足感など,精神・身体的な健康に対する効果も忘れてはならないものです。
自然の雄大な景色,季節変化などは,そのまま私たちに感動と幸福感を与えてくれます。私たちは自然というゆりかごの中で適応・進化してきた存在ですから,自然からかけ離れた生活は心身の健康を害することになってしまうのです。
生物多様性は,このように多重構造を持つものとしてとらえられており,遺伝子レベル,種のレベル,生態系レベルの多様性が保たれることが大切とされております。研究者によってはこれに景観・文化レベルの多様性を加えております。
遺伝子レベルの多様性とは「種内多様性」と言われるもので,同ーの種であるが地域的に少しずつ異なる形質を持つものなどをさします。種のレベルの多様性とは「種間多様性」と言われるもので,形質・生活の異なる様々な種類が共存・共生する状態を指し,生態系レベルの多様性とは,森がありその中に湖沼があるなど,様々な生き物が相互に影響を与えながら生活する「場の多様性」をさすものです。景観・文化的多様性という場合は,さらに視点を拡げたもので「景色の多様性」をさすものです。その場に生活する人間も含めた生物の多様性が表出した空間が景色とする考え方で,自然物のみならず人工的な工作物までをも含む文化・風土としての側面を有するものとなります。
生物多様性は,遺伝・生態学などの学問的側面,資源という利用的側面,心身の健康という人間の存在を支える基盤としての側面を包含するものであるため,また,遺伝子レベルから景観レベルまで異なるスケールを含む広大な領域を包含するものです。したがって,それぞれの立場で主張の力点が異なるため,生物多様性という言葉の用い方は一様ではなく混乱が生じています。また,生物多様性が損なわれることによる危機を世論に訴えるため,生物多様性の「危機」をキーワードとして喧伝したことにより,その表現が先鋭化していることにも注意が必要です。
この法律は,平成17年「特定外来生物による生態系に係わる被害防止に関する法律」として施行されました。目的は,外来生物による生態系,人の生命・身体,農林水産業への被害を防止するというものです。もともと日本に存在しなかった外来生物の中で生態系などに被害を及ぼすものを「特定外来生物」に指定し,飼育,栽培,保管,運搬,販売,譲渡,輸入などを原則として禁止し,すでに定着している場合は積極的に防除することを定めています。
植物に対する「特定外来生物」の指定は,第一次指定で3種,第二次指定で9種,合計12種類が指定されました。大部分が水生植物で,陸上植物はオオキンケイギク,オオハンゴンソウ,アレチウリのみです。

この他に「要注意外来生物」が公表されています。「被害に係る科学的知見及び情報が不十分」であるが,生態系被害を及ぼす可能性を持つもの,として植物では60種類が公表され,特定外来生物の候補と目されております。

外来生物法は,「外来生物被害防止法」という略称名を用いるものでもあるため,拡大解釈され,外来生物の多くのものが危険だという誤解を生んでしまいました。また,特定外来生物を定めるための基礎資料として「要注意外来生物」というカテゴリーを設けたことにより,要注意外来生物には注意しなければならない⇒使用してはならない,という誤解を生み出し,緑化植物の利用に対する混乱を招いてしまいました。また,法律の適用範囲を100年以上もさかのぼり,明治以降我が国に移入した外来生物を対象とし,また,生息域を比較的明確にしやすい魚類,動物などを対象とするならば運用しやすいものでしたが,分布が拡散しやすい植物までを対象としたことにより特定外来生物の指定が困難な状況となってしまいました。セイタカアワダチソウやアメリカセンダングサなど侵入してから長時間が経過し日本全国に分布が拡大し駆逐困難なもの,これまで長きにわたり有効利用してきた緑化植物までもが要注意外来生物のリストに加えられたからです。
国土交通省などでは,要注意外来生物に対し注意するように促す文書が出されたため,一部では外来緑化植物すべての使用を自主規制するという動きがはじまり,設計・施工サイドに混乱が発生しました。
また,外来生物法に対する衆議院環境委員会の付帯決議と中央環境審議会野生生物部会外来生物対策小委員会岩槻邦夫委員長の談話で,「外国産在来種」,「国内移入種」の使用に関する問題が提示されたため,中国・韓国から輸入され使用されてきた(外国産)在来緑化植物であるヨモギ,ヤマハギなども使用しではならないという風評が立ちました。「国内移入種」とは,同一の種類に分類されていても,他地域とは異なった遺伝的形質を持つため,他所に持ち出すとたとえ国内であっても移入種となると言うものです。生物多様性の生物多様性のなかの遺伝子レベルの多様性に関するもので,同種であっても他の地域に持ち出すと,交雑により遺伝子の汚染が発生するというものです。

同種であっても九州に生育する地域個体群を関東に持ち込むと,関東地方で独自に発達してきた地域個体群の遺伝子が汚染され,地域性が損なわれるという厳しいもののため,実施の数年前から地域性種苗の生育を行わないと対応が困難な状態となり,単年度予算という枠組みの中では実質的に作業を行うことができない事になってしまいます。
代替植物が示されることなく一方的に使用を自粛するように求められたため,のり面緑化を行う現場サイドではなすすべが無くなり,混乱が発生しました。
また,牧草は畜産,公園緑地やグランドの芝生などとして多方面で利用が行われているため,外国産だから使わない,という訳には行かないのです。このため,4省庁による緑化植物の取り扱いに関する方針検討会が催され,その利用に関する取り決めがなされました。
その内容は,次回報告させていただきます。
1)生物多様性政策研究会編
生物多様性キーワード事典,中央法規,2002
エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司
前号では,生物多様性保全の重要性と外来生物法について述べましたが,その要点を整理いたします。
生物多様性の保全とは,地域固有の遺伝子・種類・景観,あるいは風土・文化までを含めた多様性の保全を図ることで,資源という価値の面,学問的な価値の面,心身の健康を保全するという生存基盤に関する価値の面など多様で重層的な価値観を含むものです。
我が国では,生物多様性保全の観点から生物多様性国家戦略を策定し,関連国内法律を整備し,かつ,我が国独自の生態系を保全するために,外来生物被害防止法(外来生物法)を施行しました。外来生物法の目的は,生態系や農業・健康などに被害を及ぼす,あるいは及ぼす恐れのある外来生物を政令で「特定外来生物」に指定し,飼養・輸入などを規制し,すでに生息・生育しているものは駆除するというものです。
しかし,「特定外来生物」指定の候補的なカテゴリーとして「要注意外来生物」を公表し,その中に緑化植物(牧草類)を組み込んだために,様々な問題が発生しました。
牧草類は,のり面緑化のみならず,公園緑地・グラウンドなどの芝生として多用され,また,農業分野では牧畜の飼料として広い面積で栽培されているものだからです。
牧草類は,上流に生育する牧草の種子が河川水を通じて侵入し,河川固有の生態系を破壊するものとして,糾弾され,マスコミの取り上げるところになりました。これより,牧草は地域自然生態系に被害を与える「悪者」というイメージが植え付けられました。
これを受けた国交省などでは,牧草の播種について自主規制を始めました。
同時に,(外国産)在来種の使用も問題とされましたので,のり面緑化では使用できる植物がなくなり事業の遅滞が発生してしまうことになりました。
このような現実を憂い,小生は特定外来生物選定に係わるパブリックコメントにおいて牧草を擁護し,特定外来生物選定に係わる第三回特定外来生物等分類群専門家グループ会合において,利用者代表として次の5点についての意見陳述を行いました。
(1)牧草類は,のり面緑化・造園緑地のみならず農業・牧畜など産業面でも古くから活用しているものであること。
(2)緑化植物による治山緑化,のり面緑化事業に多大に貢献してきたものであること。
(3)現行の緑化植物の代替となる植物の入手が困難であり事業の推進が遅滞すること。
(4)緑化植物の評価に,植生遷移という時間のファクターを見込むことが必要であること。
(5)現状の地域生態系という観点のみならず,立地条件の変化までを視野に入れる必要があること。
http://www.env.go.jp/nature/intro/ 4document/sentei/plant03/indexb.html
たとえ,外来牧草を用いたとしても施工後20年あまりで治山緑化地・のり面緑化地は自然植生に復しており,生態系に被害を与えたという事実は無く,むしろ植生回復のためのスターターとしての役割をなしており,生態系被害については植生遷移という時間のファクターを組み込むことが必要という主張を行いました。また,牧草を用いた上流の現場は自然に復しても,下流の河川に定着し植生被害を与えているという意見については,上流にダムを造り,中下流では護岸工事を付し,治水利水のために河川環境が激変しており,すでに我が国在来の河川植生が成立する環境が保持されているとはいえず,そこへシナダレスズメガヤ(ウイーピングラブグラス)が侵入定着したとしても,在来の河川植生が駆逐されるという指摘にはあたらない。むしろ,利水による水量コントロールに起因する水量の減少と氾濫源の消失,流路固定による洗掘とそれに伴う河原の陸化による乾燥こそが在来河川植生消失の原因であり,シナダレスズメガヤの侵入定着はその結果であり,ススキ草原化する先駆的な植生であるとしました。
立場が異なれば,見方が異なるのは当然ですが,人為による立地条件の変化を無視し,ただそこに存在しているから外来牧草が悪いという議論ではなく,事実に即した議論をもとに対策を行うよう要望しました。
元来,のり面緑化,公園緑地の芝生,スポーツターフ用芝草,牧畜の飼料として牧場で栽培されている牧草類を,外来生物として「特定外来生物」に指定しその使用を制限すると様々な問題が発生する恐れが高いため,「別途総合的な検討を進める緑化植物」として環境省自然保護局,農林水産省農村振興局・生産局,林野庁,国土交通省都市・地域整備局・河川局・道路局・港湾局の4省庁により「外来生物の被害防止等に配慮した緑化植物取扱方針検討調査(緑化植物取扱方針検討調査)」として検討を行い,緑化植物の取扱方向が示されました。取扱方向を要約して示します。
・調査対象種(45種)は,積悪土壌地,災害復旧など早期緑化が求められる場所においては有用である。

・外来緑化植物による生態系等への影響を回避・低減させるためには,外来緑化植物の使用を控えることが望ましいが,機能的に補完でき生態系等への影響のない代替種が明らかになっていないことなどから,現状において調査対象種の使用を取りやめることは困難。
○生物多様性保全上重要地域
(自然公園区域特別保護地区や特に保全が必要な希少種の生育地等)
・イネ科植物・(外国産)在来緑化植物:
→使用をさける。
対策
⇒可能な限り地域系統に配慮した緑化植物材料の活用
(…計画栽培が必要・中野注)
⇒森林表土を用いる工法や自然侵入を促進する工法等の活用
⇒生物多様性に配慮した緑化工法を導入
・ハリエンジュ(ニセアカシア):
→可能な限り新たな使用を避ける
○その他の場所(上記以外の場所・一般地)
・シナダレスズメガヤ(ウイーピングラブグラス):
→使用を差し控える
・その他のイネ科植物:
→緑化の目的を達成し得る範囲内において,可能な限り草丈の低い種・品種,種子による繁殖力の小さい種・品種を使用
播種量や配合比を小さくすることにより使用量を抑える
・ (外国産)在来緑化植物:
→国内産緑化植物と同等の供給が行えないため(使用を取りやめることは困難=現状のまま使用する・中野注)
・ハリエンジュ:
→周辺自然環境への影響に配慮して,その使用を検討する
・クロバナエンジュ(イタチハギ),ハリエンジュ(ニセアカシア):
→可能な限り新たな使用を避ける
緑化植物は,上記に示したように一般地においては有用であり,機能・経済性の両点で代替できる植物が認められないため自然公園特別保護地区など特に生態系の保全が重要な地域以外,即ち一般地では緑化植物の使用については問題ないものとなりました。ただし,河川植生を被圧するとされるシナダレスズメガヤ(ウィーピングラブグラス)はその使用をひかえ,他の牧草類についても草丈の低い品種・種を,できる限り少量播種し,在来植生への移行・遷移を速やかに行うことができるように配慮するものとしました。また,イタチハギ,ニセアカシアは,リンゴ炭疽病の宿主となることから,リンゴ栽培地周辺での使用を避けるものとしました。
平成18年度は,引き続き「生態系保全のための植生管理方策検討調査及び評価指標検討調査(生態系保全型植生管理方策検討調査)」が実施され,環境への負荷の少ない緑化手法の導入,緑化地及び周辺において実現可能なモニタリング手法,植生管理手法などの検討と共にゾーニングについての検討がなされています。
国内で栽培されている作物,あるいは飼育されている家畜のほとんどは外来生物ですが,長年にわたる栽培・飼育により安定した農業生態系が形成されています。この農業生態系が新たな外来生物(強害雑草や除草剤抵抗遺伝子を持つ雑草など)の侵入により撹乱される事を防ぐために,農業環境技術研究所では外来生物の実態と被害を防止するために次の研究を行い,その成果を発表しております。
1)国内における外来植物のまん延の実態と,その要因を明らかにすること。
2)防除対象とする外来植物を特定するために必要な生態系影響リスク評価法を開発すること。
3)蔓延を防止するための総合防除技術を開発しその効果の実証と生物多様性への影響の評価を行うこと。
外来生物法の適用範囲は輸入,国内での飼養・栽培に限定されているため,国外から非意図的に導入されるものに対する対策は後手となることが多いのです。このため,輸入資材・農産物・飼料など様々な侵入経路の監視と早期発見による拡散の予防を行うことが重要です。
外来生物に関する正しい知識と法律の理解が必要となる所以です。
1)中野裕司:特定外来生物と緑化植物の取り扱い-牧草は本当に問題か-
緑化工技術第27集,日本緑化工協会,2006
2)環境・農林水産省・林野庁・国土交通省:
平成17年度外来生物による被害の防止等に配慮した緑化植物取扱方針検討調査業務報告書,2006
3)農業環境技術研究所「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」HP
http://www.niaes.affrc.go.jp/project/plant _al ien/index.html